サステナビリティを目指す、あらゆる人のための特別企画――「オープンセミナー」と「BoF」をレポート

昨年から引き続き、東京・丸の内のエリア型カンファレンスとして開催された、SB国際会議2024東京・丸の内。さらに、エリア内を会場にした展示やさまざまな内容のセミナーを通じ、気軽にサステナビリティの学びや発見につなげる「OPEN SEMINAR & EXHIBITION」が同時開催された。ここでは、SB国際会議の特別企画として、「資源循環」や「ファッション」など6つのテーマで開催されたオープンセミナーや、最終日のBoF(Bird of Feather、懇親会)の様子をレポートする。(横田伸治、市岡光子、サステナブル・ブランド ジャパン=松島香織)

オープンセミナー

【資源循環】繊維回収プロジェクトと消費者行動変容

日揮ホールディングスは、総合エンジニアリングを主な事業とし、石油プラント施設などを設計・建設している。同社の長谷川順一氏は「一方でやはり化石燃料を減らすことは必要であり、エネルギートランジションをする方向で進めている。また資源循環にも取り組んでいる」と話し、衣類回収サービス「するーぷ」を紹介した。

「するーぷ」は、消費者の衣類を回収し、再資源化(主にリユース)することで社会課題の解決と事業機会の創出を目指している。2024年1月から、神戸市でIoT機能付きの回収ボックスを活用した無人の衣類回収の実証実験を開始。このプロジェクトは神戸市が公募した「令和5年度 CO+CREATION KOBE Project」(民間提案型事業促進制度)に採択された。ユーザーは1200人、1カ月で1.5トン分の衣類を回収したという[^undefined]。

衣類に関しては、着終わるとごみとして回収されることが多く、「廃棄物処理法」は、県や区市町村などの各行政管轄によって見解が異なり、衣類の回収方法を統一することは難しい。長谷川氏は、法制度のさらなる整備を課題に挙げ、同時に消費者の意識改革も必要だと強調した。神戸市での実証実験では、消費者が回収ボックスに投函(とうかん)した衣類を、市内で使える買い物券に交換して消費者の行動を後押し。リユースで得られた収益は、市内の子どもを支援する団体に寄付される仕組みだ。「今後は、化粧品や詰め替え容器にも応用し発展していきたい」と長谷川氏は意欲を見せた。

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【地方創生×次世代育成】観光が寄与する地域課題解決 〜高校生と共創した新たな交流事業

観光と教育をテーマにした本セミナーでは、ファシリテーターを日本旅行の近藤れい奈氏が務め、「北陸新幹線福井県プロジェクト」を紹介した。

このプロジェクトは、北陸新幹線延伸に合わせて同県の高校5校と日本旅行が取り組んだ。高校生自身が、1年間の授業を通して教育旅行プランを考えたもので、担当した山田幸司氏は「地域の担い手育成と地域活性化を両立させることが狙いだ」と語った。このプロジェクトで出されたアイデアは、実際の教育旅行プランとして2024年度に導入予定であり、山田氏は「考えるだけでなく、(ビジネスを)実践的に学んでいける点が企業連携のメリット」と話した。

福井県教育庁高校教育課参事の大正公丹子氏は、「探究学習は学校だけで完結してできないし、特に観光ビジネスには教科書がない。プロの企業からフィードバックをもらうことで生徒は刺激を受け、自己効力感向上につながる。地域理解が深まり、県外への人材流出を防ぐことも期待できる」と教育面から手応えを語った。

【エシカル/ライフスタイル】紙製品から考えるエシカル消費

冒頭、ファシリテーターを務めた電通の田中理絵氏が、同社の調査で、「日本の使用済み容器などの回収率が他国と比べて低い」結果が出ていることに言及した。それを受け、講談社『FRaU』編集長の関 龍彦氏は、「『FRaU』ではリサイクル可能な表紙加工にしている。資源を増やす意識を持つことが大切」と語った。また、日本製紙も難処理古紙の再生技術を開発中だという。

「エシカル消費は高額でも消費者に根付くのか」という議論では、日本製紙の太刀川寛氏が「環境保全のためにかかるコストにも着目し、購入商品を選んでほしい」と強調した。

来場者から「古紙回収などは動機づけが重要ではないか」と問題提起があると、日本製紙クレシアの長谷川敏彦氏は、動機づけの1つの事例として、グルメ商品が当たる自社製品のリサイクルキャンペーンを紹介。田中氏も「回収を義務ではなく、新しいライフスタイルとして根付かせることが重要だ」と答えた。

【旅とサステナビリティ】JALと考えるサステナブルな空の旅

日本航空(以下、JAL)は、CO2削減に向け、航空機燃料に廃食油を原料としたSAF(持続可能な航空燃料)を使用したり、障がい者向けに事前準備を組み込んだ「アクセシビリティツアー」を実施している。その背景を石川恭子氏は「現在はストーリー重視の時代。顧客の共感を重視している」と説明した。

また、搭乗時間の厳守など日々の当たり前の行動がサステナビリティにつながることを示したコミュニケーション施策「かくれナビリティ」について、「見る人に“気づき”を促す設計を心がけた。社内外の理解を深めるきっかけになった」と西岡桃子氏は語った。

それらを受けファシリテーターを務めた日本マーケティング協会の細田悦弘氏は、企業における社会課題解決の取り組み実施の難しさに触れ、「JALのように社員の気づきを行動に結び付けていくことは大切だ」とまとめた。

【サステナブルレストラン】消費者の行動変容はどのように生み出せるか? ~飲食店へのサステナビリティ視点のアプローチ~

「食」をテーマとしたセミナーでは、まず一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事の下田屋毅氏が「飲食店は、知らぬ間に児童労働や環境破壊に加担してしまうことがある」とし、併せて消費者の意識変革が必要だと述べた。

東京・練馬区の「PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO」オーナーシェフである岩澤正和氏は、「料理人が社会課題を自覚することで、食品の適正な価値向上や、社会を再生する方向へのアクションができる」と語り、EUの規格を満たす国産小麦の独自開発、被災地の復興支援、愛媛県での森林再生プロジェクトなどの活動を紹介した。

農林水産省も、飲食店のサステナビリティ・アクションを学ぶ勉強会を開催するなど、取り組みを支援している。同省の村上真理子氏は「事例を広めていくために、やはり消費者の理解と行動変容が非常に重要と考えている」と話した。また、デンマークで文化翻訳家として活動するニールセン北村朋子氏は、国が認証しているオーガニック・ダイニング・ラベルが消費者間のコミュニケーションのきっかけとして浸透していることを紹介。見切り品の販売アプリを通じ、ゲーム感覚で楽しみながらフードロス削減が進んでいることも挙げた。

【サステナブルファッション】2024年「サステナブルファッション」、本格始動へ

ファッション業界は、大量廃棄の問題も含め、エネルギー産業の次に環境負荷のある産業だと指摘されている。さらに生産過程での人権侵害や児童労働の問題、リアルファー(動物の毛皮)の使用による動物愛護の問題など、サステナビリティに関連するさまざまな課題がある。しかし一方で、「希望もある」と講談社『FRaU』編集長の関 龍彦氏は語り、日本の環境省によるサステナブルファッション推進の取り組みを紹介した。

『WWD JAPAN』編集統括の向 千鶴氏は、「ファッションビジネスを真剣に考えるほど生物多様性に思い至る」と言う。従来の価値観を変え、人工ダイヤモンドなど、テクノロジーを用いて「新しい価値」を創造することが重要だと説いた。サステナブルファッションの浸透に向けては、販売員の存在も鍵になることが語られた。

ワールド・モード・ホールディングスの加福真介氏は、自社が提供している企業向けのコンサルティングや業界への提言などを紹介。「ファッション産業が変われば、世の中の習慣や価値観を変えていける」と期待を込めて話した。

サステナビリティを語り合う場――BoF

参加者が登壇者などと交流を図る場として開催されたBoF。雨が降るあいにくの天気だったが、「地方創生」「未来のプラスチックを考える」「ESG・情報開示」をテーマにした各会場には多くの参加者が集まり、積極的にサステナビリティに関する意見を交換していた。また2度目となる今年のBoFには、米国サステナブル・ブランドの主宰者である、コーアン・スカジニア氏が各会場に足を運び、参加者と歓談する場面が見られた。

スカジニア氏は、コロナ禍を経て久しぶりの来日であり、SB国際会議2024東京・丸の内について「対話はますます洗練され続けており、日本では非常にエキサイティングな進歩が起こっていると思います。来年の動きを楽しみにしています」と語った。

「ESG・情報開示」をテーマにした会場に来ていた大学生は、「セッションに参加して原材料調達に興味がわき、刺激を受けた。就活生なので、そういう取り組みをきちんとしている企業に入りたい」「学生生活だと、自分が興味のある環境と人権課題の情報はなかなか入って来ない。SBのようなイベントは自分にとって大きな価値がある」などと話し、普段は接することのないビジネスパーソンと積極的に交流していた。

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