食品・飲料業界のサステナビリティ目標達成にいま必要な5つのこと

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サステナビリティ専門のコンサルティング会社クオンティスはこのほど、レポート『変革のためのレシピ(Recipe for Transformation)』を発表した。同社はBCG(ボストン コンサルティング グループ)に属し、ビジネスをプラネタリーバウンダリー(地球の限界)に整合させるためのサステナビリティ・トランスフォーメーションを推進している。調査は米国・EUの食飲料産業で働く600人以上の人材や経営幹部を対象に行われ、小売や卸売、消費者向け包装商品、日用品、農業関連の分野の大企業で働く人たちが回答した。(翻訳・編集=小松はるか)

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『変革のためのレシピ』の回答者の76%は、自社のサステナビリティ指針にある程度の自信を持っており、2030年までに環境目標を達成できると回答した。しかし、クオンティスは回答者らのアクションプランの多くにサステナビリティ実現のための重要な要素が欠けていると指摘する。

製品ポートフォリオの再設計、リジェネラティブ(環境再生型)農業、プラントベースの取り組みの3点は、大規模な抜本的変革を生む大きな可能性があるにも関わらず、今後1年間における優先事項の最下位だった。さらに、「企業全体の明確なアクションプラン」については2番目(38%)に重要な成功要因に入っていたものの、26%の回答者が「企業全体の明確なアクションプラン」をいまだに課題と捉えていることもわかった。

主な調査結果

サプライチェーンは依然として最大の課題。回答者の42%がサプライチェーンの複雑性を、サステナビリティを実現するための最大障壁として挙げている。

各部門の予算が示す通り、財政投資は障壁のまま。資金配分はサステナビリティを事業に組み込む上で2番目に大きな障壁として挙げられており大きな課題だ。環境負荷を軽減するための年間平均予算は部門全体でわずか12.5%に過ぎない。

CSO( チーフ・サステナビリティ・オフィサー)は部門間の同意をより必要としている。リーダーが定めた企業のコミットメントや文化は各部門のサステナブルな取り組みの最大の推進力だが、サステナビリティ実現の2大障壁である「サプライチェーン」「予算配分」は各部門が関与できないことが多く、サステナビリティ戦略と財務戦略を一致させる重要性を示している。

パッケージ(包装材)は優先事項。ほとんどの回答者がパッケージをより持続可能なものにするための手段・予算を有しており、62%が次の1年間の最優先事項として挙げている。これは各ブランドに共通する出発点であるものの、こうした取り組みを拡大・実行するための重要な手段が欠けている。

消費者は準備ができている。業界はまさに実行に移すことが求められている。現在の経済情勢であっても、マーケティングに携わる回答者の100%が持続可能な購買習慣に関して消費者行動の変化を目の当たりにしている。半数以上が、消費者は持続可能な製品により関心を持っており、そうした製品を手に入れるために、よりお金を払いたいと考えていると回答した。

クオンティスのグローバルフード&ビバレッジを率いるシャーロット・バンデ氏は「食品・飲料分野のリーダーたちは進歩を見せているが、プラネタリーバウンダリーやレジリエンスと整合した道筋には縦割り的なサステナビリティからビジネス機能全般に組み込まれたサステナビリティへの転換が求められるだろう」と話す。

「試算は食品・飲料企業が素早く行動に移さなければ自社の価値を最大で26%失うことになると示している。しかし、効果的かつ効率的に行動するには多くの課題が立ちはだかる。より多くの予算を確保し、影響力をもたらす変革を推進するには、部門全体、そしてバリューチェーン上の戦略的パートナーとの連携が必要だろう」

注力すべき5つのテーマ

クオンティスは、事業も地球も繁栄する方法で企業・産業を未来へと導く5つの重要なテーマを紹介している。

1. サプライチェーンのレジリエンスを高める
起こりうる金融危機や予測できない環境破壊を前に、企業は事業のレジリエンスを高めるサプライチェーン計画に投資しなければならない。リジェネラティブ農業への投資を増やすことは長期的な商品供給を確実にし、農家と生産者との関係を育む。さらに企業が劇的な変化に適応して、より堅固で持続可能な食料生態系に貢献する支援を行うことによって、レジリエンスを高めることにつながる。

2. 製品ポートフォリオの変革
環境・栄養・品質・収益性の各指標において最高性能の製品と最低性能の製品はどれか? サステナビリティを実現するための先進的な取り組みには代替食材、レシピ、パッケージのデザイン、量の総合的評価が含まれる。サステナブルな慣行を拡大していくには効果的な試験、業界内での連携が必要となる。製品ポートフォリオのイノベーションは、消費者の品質・多様性に関する要求に応えながら環境負荷やリスクを低減しようとすることによって起きるものだ。

3. 排出量削減から自然支援へのシフト
食料システムを環境に配慮した経済と整合させて効果的に変えていくには、企業はCO2排出量の削減を超えた取り組みを拡大させていかなければならない。食品・飲料業界の農業への大幅な依存を考えると、自然は重要な役割を果たしている。経営者らは気候変動対策に加えて生物多様性戦略も採用するという考え方に打ちのめされるかもしれないが、両方を優先することで気候変動目標への進展を加速させ、長期的なレジリエンスを確保することも可能となる。

4. 消費者の行動変容を促す
生物多様性戦略や気候変動戦略を定めることは、企業を包括的で持続可能な変革のための正しい方向へと導くのに役立つ。一方、ステークホルダー、とりわけ消費者にサステナビリティ目標の達成に参加してもらうことも重要だ。企業は消費者がもたらすプラネタリーバウンダリーへの直接的影響や、食品廃棄物の削減、より持続可能な食事を推奨することを通じて、企業のサステナビリティ目標に積極的に貢献する方法に気づかせなければならない。

5. 今後の規制状況への備え
絶えず進化する規制に対応するには備えが重要だ。企業は経営幹部や取締会のメンバー、部門リーダーに対し、森林破壊やパッケージ、エコラベル、より広範なESG報告に関する今後の規制の順守を確保する責任を負わせるべきだ。エンドマーケットやサプライヤーが拠点を置く地域での規制変更の先を行くことは、行動を起こさないことによる代償を避けるだけでなく、自社をサステナビリティのリーダーにすることにもなる。

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