クラウドファンディングでスタートアップを育てる理由 FUNDINNO 大浦COOに聞く

「クラウドファンディングで1億総起業家、1億総投資家を実現するフェアな環境を作る」と話す大浦COO

企業やイベント、社会活動の「応援団」として日本でも定着したクラウドファンディング。その潮流がスタートアップ投資にも波及してきた。2016年に国内初の株式投資型クラウドファンディング事業者となったFUNDINNO(東京都港区)の大浦学COO(最高執行責任者)に、同事業の現在地と可能性を聞いた。

未公開株の「市場開放」を目指して創業

-株式投資型クラウドファンディングサービスを始めたきっかけを教えて下さい。

日本ではスタートアップをはじめとする未公開株への投資がベンチャーキャピタル(VC)や一部の投資家層に限られていたことですね。海外ではインターネットを通じてスタートアップ企業への投資ができる。そこで一般の皆さんが未公開株市場にアクセスする手段として、クラウドファンディングの手法に着目しました。

金融商品取引法の改正で株式投資型クラウドファンディングサービスが解禁されたのを受けて直ちに参入を決めました。国内初だけにハードルも高く、登録までに1年半かかりました。サービスが立ち上がるまでに費用もかかりましたし、私たちに大きな資金力があったわけではない。正直、焦りました。

-大手証券会社は株式投資型クラウドファンディングサービスの参入には積極的ではないように見えます。

やはり調達額1億円、出資額50万円の上限規制が大きかったと思います。このスケールではビジネスとして採算が合わないと判断されたのではないでしょうか。さらに資金調達するスタートアップ側にしても「小口株主が増えると面倒だから、クラウドファンディングなど受け入れないだろう」との見立てもあったのかもしれません。もちろん参入された大手はありましたが、撤退も珍しくありません。

13万人の投資家が最大の強味

-FUNDINNOの強味は何でしょう?

まずは圧倒的に投資家の数が多いことです。これまでに約13万人の投資家を集め、現在も月に2000人前後の新規参入があります。スタートアップから見れば、投資家が多いクラウドファンディングサービスは資金調達での優位性が高いですから。

-とはいえスタートアップにとっては株主が増えることは気になります。

わが社では資金調達で普通株に加えて新株予約権を活用しています。つまり資金調達した時点で株主ではないので、既存株主が増えて同意プロセスが複雑になることを回避できる仕組みです。

-ファイナンスの世界では珍しく、大手金融機関傘下ではありませんね。

大手の子会社ではない独立系であることも、大きな強味だと認識しています。わが社も株主数が非常に多いんです。だからこそクラウドファンディングで株主数が多い企業の課題感が理解できています。

「どうすれば多数の株主さんに、行き届いた管理ができるのか」「どうすれば株主さんは会社を応援してくれるのか」といった問いを、私たちが顧客と同じ土俵で追究しています。資金調達後のフォローアップのクオリティーも高いのも、独立系ならではの特徴だと思います。

スタートアップ投資「三つの壁」を打破

-投資家から見て、FUNDINNOを利用するメリットは?

個人投資家の場合、エンジェル投資やスタートアップ投資には「三つの壁」があります。第1の壁は、そもそも(市場に)アクセスできないこと。投資対象企業を見つけるのが大変なんです。

第2の壁は運良く見つけられたにしても、投資対象企業の審査やデューデリジェンス(投資先企業の価値やリスクの調査)などの投資判断作業が極めて難しい。

そして第3の壁は資金力。日本で500万円、1000万円をポンと出せるエンジェル投資家は、そう多くありません。

アクセスについては、私たちで投資対象企業を見つけてくる。投資判断の材料は私たちが審査をした上で、専用のウェブページを用意して文書や画像、動画などで事業計画やどういう会社なのかを分かるようにしています。それらに加えて10万円から投資できるというのは、大きな魅力になっています。

-資金調達するスタートアップ側のメリットはどうでしょう?

スタートアップにとって資金調達の選択肢には、VCと事業会社、そしてエンジェル投資家などがあります。私たちが手がけるクラウドファンディングは、小口分散型の投資になります。

先ほど申し上げたように、VCや事業会社からの出資に比べると株主数は増えます。半面、権利の強い株主が存在しません。その結果、出資者は株主と言うよりも、事業に共感して投資しつつユーザーとしてサービスや製品を利用してくれるファンとなってくれる可能性が高い。

-株式会社の起源は企業の理念や事業に惚れ込み、その実現を応援する「ファン」の集まりだったと言われています。FUNDINNOは株式会社の原点に戻る取り組みかもしれませんね。

そう思います。非上場企業では優先株などの種類株が存在するケースも珍しくなく、株主の権利は平等ではないんです。こうした仕組みもフェアにしなくてはならないと考えています。わが社が資金調達に関わる場合、ほとんどは普通株と新株予約権です。

資金調達で国内スタートアップを成長軌道に

-FUNDINNOで資金調達したスタートアップ企業の反応はいかがですか?

もちろん資金調達ができるというメリットも大きいのですが、それ以外にFUNDINNO13万人の投資家による集合知の判断を受けられることに対する評価も高い。自らのビジネスの立ち位置が分かるし、市場との対話にもなる。当然、上場すれば市場との対話も必要になるので、投資家とのコミュニケーション力を向上することにも役立っていると聞きます。

-今後の展開について教えて下さい。

2022年7月に特定投資家については50万円の上限規制が撤廃されました。今年2月からは1億円を超える大型資金調達も始まり、月1件程度の大型資金調達を成功させています。まだネット以外での資金調達に限られていますが、ネットでも大口案件を実現したいですね。

来年か再来年にかけてはIPO(新規上場)やM&AといったEXIT(出口)が見えない未公開株のセカンダリーマーケット活性化にも貢献したいと考えています。規制緩和も進むでしょうし、大いに期待しています。

-政府もスタートアップの育成を重視しています。

グローバルで戦える日本企業を育てるためにも、スタートアップへの投資を増やすことは重要です。米国に比べるとスタートアップ投資の総額は50分の1に過ぎません。

実は同じようなビジネスモデルは世界同時多発で生まれている。日本でもグローバルビジネスの芽は生まれているのです。そうしたビジネスモデルに米シリコンバレーでは数十億円の資金が集まるのですが、日本ではせいぜい数千万円。これでは事業化や成長のスピードで負けてしまう。

クラウドファンディングで1億総起業家、1億総投資家を実現するフェアな環境を作り、企業規模が小さい段階から市場と対話して、市場に受け入れられる企業を成長させていく。FUNDINNOはそうしたビジネスを目指しています。

文・写真:糸永正行編集委員

<p style="display: none;>

糸永正行

日刊工業新聞社入社後、松山支局記者、中・四国支社編集部記者、本社第一産業部記者、経済部編集委員(財界・首相官邸担当)、第一産業部次長、横浜総局長、企画調査部長、日刊工業広告社社長、産業研究所長、日刊工業開発センター社長を歴任。2017年ストライクへ出向し、M&A Online 編集委員に。2022年ストライクに転籍、現在に至る。早稲田大学社会科学部卒。東京大学情報学環教育部、同大学院学際情報学府修士課程修了。

© 株式会社ストライク