草彅剛と香取慎吾、1000万回以上再生のバズを起こすアイドルとしての力 ふたりのダンスが人の心を掴む理由

草彅剛と香取慎吾がSNSにショートダンス動画をアップするたび注目を浴びている。これまでもSEKAI NO OWARIの「Habit」やAdoの「唱」など、それぞれ単独でも人気曲のダンスを披露してきた彼ら。なかでも最近話題になったのが、ふたり揃って踊ったMåneskinの「I WANNA BE YOUR SLAVE」のダンス動画だ。

香取のYouTubeチャンネルにアップされた動画は1065万回、TikTokにいたっては1423.5万回と圧倒的な再生回数を記録(いずれも7月14日現在)。本人たちもこの視聴数の伸びに驚いたようで、ふたりがパーソナリティを務めるラジオ『ShinTsuyo POWER SPLASH』(bayfm)6月30日放送回では、香取が興奮気味に「アツいことになってますよ。大変なことになってるんですよ」と話していた。

一方で、草彅は「バズってるわけですね」「それがすごいことなのかどうかわからないですけど」とどこか他人事な様子。そんな草彅に香取が「あなたはわからなくていいんです」と返す流れも、まさに“しんつよ”という雰囲気で微笑ましかった。しかし、なぜこんなにも“しんつよ”のダンス動画が多くの人の心を掴んでいるのだろうか。

その理由のひとつは、なんといっても彼らならではの空気感があるように思う。ふたりはSMAP結成から親友として共に歩んできたことで知られている。もともと幼馴染や友人だったという話はバンドやお笑いコンビなどでは聞くことはあっても、アイドルグループではなかなか聞かない。ましてや、変化の激しいこの世界で、35年以上その関係性が続いているという話はとても貴重だ。

そんな草彅と香取が若き頃、ラジカセ片手にさまざまなところでストリートダンスをしていたというエピソードをふと思い出した。2017年10月4日放送の『おじゃMAP!!』(フジテレビ系)のスペシャルでは、ふたりで一曲まるまる振り付けを考えたことや、夜中から昼間で夢中で踊り続けていたことなどを振り返る場面も。

さらに、実際に踊っていたという新百合ヶ丘駅前で雨に打たれながらダンスを披露したふたり。通りがかった多くの人たちが思わず笑顔でスマホのカメラを向けていたのを覚えている。ひょっとしたら彼らのショートダンス動画は、このストリートダンスに遭遇したときのワクワク感に通じるものがあるのではないだろうか。

もし草彅と香取が新百合ヶ丘駅前で踊っていた当時にSNSがあったら……。そういう形で世界に見つかっていたのかもしれない、なんて想像してしまった。一緒に踊ることが楽しくて仕方ないといった気持ちが伝わってくるようなダンス。そんな彼らを見かけたら最後、応援せずにはいられない圧倒的な親しみやすさがある。どこか出会った頃から変わらないふたりの関係性が、観ているこちらにも“永遠の少年たち”として映るのかもしれない。

とはいえ、動画のコメント欄には「さすがトップアイドル」という声もあるように、彼らのダンスからはアイドルとして長年踊り込んできたキャリアもにじみ出ているのも不思議なバランスだ。積み重ねてきたものがあるからこそ、ここぞというときにサマになる。体に染み付いたものがあるからこそ、肩の力を抜いた状態であってもしっかりとキマる。そのメリハリもまた見ていて飽きないポイントだ。

草彅のYouTubeチャンネルにアップされた「カンカンダンス」の動画は、「I WANNA BE YOUR SLAVE」の雰囲気とは打って変わって初見ならではのとまどいとゆるさが笑いを誘う仕上がりになっている。

SMAPは、多忙なあまり年々ダンスの振り付けを覚える時間が短くなっていったという話を聞いたことがあるが、そうした無茶振りとも言える状況に追い込まれるほどにエンターテインメントへと昇華できるのも彼らの実力。

グダグダでも面白い。ラフにも踊れる。もちろんビシッとキメることもできる。一曲に対していかようにも魅せられることを私たちはもうすでに知っている。だからこそ「次はこういうふうに踊ってほしい」というリクエストをせずにはいられない。まさに「もっと見たい」、そして「ずっと見ていたい」という気分にさせてくれるのが、草彅と香取のダンス動画にはあるのだ。

ストリートからドームまで。さまざまなステージで観客を喜ばせ、そして自分たち自身も楽しませてきた経験をしている彼らが、SNSという場を賑やかすことができるのは当然のことなのかもしれない。

常にアンテナを張り巡らせ呼吸するようにエンタメを創り上げていく香取。そして「それがすごいことなのかわからない」とマイペースに踊ることを楽しむ草彅。まったく別のベクトルで“自然体”な彼らならではのバランスで“しんつよ”のダンス動画が成立していることに気づかされる。ふたりだからこそ醸し出せるダンス動画を、ぜひとも今後も多くの楽曲で、そして視聴者の声を汲んで多彩なバリエーションで披露してくれることを楽しみにしている。

(文=佐藤結衣)

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