「まるで売国法だ」農業政策めぐり激論 25年ぶり法改正で日本は“飢えない国”になる?

愛知県で40年にわたり農業を続ける森嘉隆さん。約6ヘクタールの農園でキャベツやハクサイを栽培してきたが、「もう限界だ」と嘆く。

森嘉隆さん:
「肥料が3000円だもん。20年前は1000円くらいだった。もう我慢超えちゃっている。肥料は高くなるわ、売るものは安いわじゃ、とてもやっていけんよねって」

農業に従事する人の数は、猛スピードで減少している。2000年は240万人だったが、2023年には116万人と、この20年ほどで半分以下にまで激減。平均年齢も68.7歳と高齢化が止まらない。

東京大学大学院の鈴木宣弘特任教授は、このままでは日本が飢えると警鐘を鳴らす。

「現場の農業、農村を見てみたらもう赤字。コストが上がっても、それを価格に転嫁できなくて、どんどん倒産している」(鈴木特任教授)

揺らぐ食の安全保障

日本の食料自給率はカロリーベースで38%(2022年度)。生きていくのに必要なカロリーの6割以上を海外からの輸入に頼っている。鈴木特任教授によれば、野菜の種や肥料、エサのトウモロコシなども計算に入れると、本当の自給率はたったの10%だという。

「異常気象」「戦争」「感染症」など様々なリスクが顕在化する中で、重要物資を輸入に依存し、農家の激減にも歯止めがかからない日本。

食の“安全保障”が大きく揺らぐ中、2024年5月29日、日本の農業の指針となる「食料・農業・農村基本法」が成立した。25年ぶりの法改正で、新たに「食料安全保障の確保」を明記。また「安定的な輸入」や「輸出の促進」「先端的技術を活用した生産性の向上」などの方針が盛り込まれている。

これで日本は“飢えることのない国”に変わるのか。

25年ぶり法改正で“飢えない国”に?

テレビ愛知の「激論!コロシアム」に出演した政策コンサルタントで元総務官僚の室伏謙一さんは「まるで売国法、中身はお花畑だ」と手厳しい。

政策コンサルタント 室伏謙一さん:
「安定的に輸入を確保といっても、(食料はどの国も自国民優先で)入ってこない確率の方が高い。また農家に対して売れるものを作れというが、これは“植民地農業”だ。宗主国が欲しがる高い農産物を優先して作れという中身。これで、どうやって食料安全保障を確保するのか」

また国際ジャーナリストの堤未果さんは、政府のやる気のなさに憤る。

国際ジャーナリスト 堤未果さん:
「肝心の食料自給率の強化は格下げされている。また農家への所得補償、価格維持、種の自給、農業資材の国産化、有機の拡大などは(法的拘束力のない)付帯決議になった。そもそもやる気がない」

農林中金総合研究所・理事研究員の平澤明彦さんは、法改正に盛り込まれた「輸出の促進」に不安を募らせる。

農林中金総合研究所 平澤明彦さん:
「日本が輸出できている品目は主に水産物。あとは和牛やリンゴだが、和牛は海外から輸入されるエサで飼育されている。だから今の輸出をただ拡大しても日本の農地は守れない」

経営コンサルタントの坂口孝則さんは、諸外国との“駆け引き”を提案する。

経営コンサルタント 坂口孝則さん:
「食料・食品を諸外国が安全保障の武器にしているなら、日本も半導体関係を武器にしたらどうか。シーラー、フォトレジスト、ウェハーなど、日本が最大シェアを持つものは130品目ある。食料を売ってくれないなら、こっちも売らないぞ、と駆け引きに使うことができる」(坂口さん)

「軍事」「エネルギー」「食料」。これは安全保障の3大要素だが、島国で輸入依存の日本の場合、農業は「エネルギー」とも密接に関わる。燃料が来なければ農業機械は動かず、ハウス栽培もできないからだ。

食のリスクは他人事ではない。国民的な議論が必要だ。

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