TOMORROW X TOGETHERの“聴かせる”ボーカルの魅力 日本シングルの歩みと「MOA Diary」の存在

7月3日に日本4thシングル『誓い (CHIKAI)』をリリースしたTOMORROW X TOGETHER。収録全3曲のうち、シンガーソングライターの大橋ちっぽけが楽曲制作で参加したタイトル曲「ひとつの誓い (We'll Never Change)」と、メンバーのHUENINGKAIがクレジットされた「きっとずっと (Kitto Zutto)」の2曲が日本オリジナル曲となり、日本のMOA(ファンの呼称)への思いが込められたという作品に相応しい内容となった。

そんな彼らの日本オリジナル曲の歩みは、2020年にリリースされた日本2ndシングル『DRAMA』の収録曲「永遠に光れ (Everlasting Shine)」から始まった。この曲は初の日本オリジナル曲にしてアニメ『ブラッククローバー』(テレビ東京系)のオープニングテーマとなっており、トラックも“これぞアニソン”と思わせる疾走感に溢れたものとなっている。また、翌年2021年にリリースされた日本1stアルバム『STILL DREAMING』の収録曲「Force」は、Mrs. GREEN APPLEの大森元貴(Vo/Gt)が書き下ろした2作目の日本オリジナル曲に。アニメ『ワールドトリガー』2ndシーズン(テレビ朝日系)の主題歌に起用されており、こちらもまたアニメソングの王道をいく曲と言っても差し支えないだろう。特に「Force」は、『THE FIRST TAKE』にてデビューミニアルバムタイトル曲の日本語バージョン「ある日、頭からツノが生えた (CROWN) [Japanese Ver.]」に続いて2回目の出演となったことでも注目を集めた。

映像では一発撮りとは思えない歌唱力をそれぞれが披露しており、中でも「Force」で〈We are dreamers〉と歌い出すHUENINGKAIはすさまじい求心力で聴く者を曲の世界へ引き入れる。いつまでも聴いていたくなる癖の少ない歌声は、果てしなくクリーンで美しい。『THE FIRST TAKE』や日本の音楽番組など、MOAやK-POPファン以外の目にも留まりやすい場所となると、HUENINGKAIのボーカルはより重要な役割を果たすだろう。

また、1番のAメロの初めにBEOMGYUが歌う〈必然の中のForceだ/空前絶後の出会いだ〉というパートには、作り手である大森の挑戦的な姿勢も感じる。“必然”や“空前絶後”という口に出しづらい歌詞が並ぶうえ、ふわりと浮遊するような歌のリズムも特徴的で、かなり神経を使うパートになっていると思う。しかし、大森の期待通りだろう、BEOMGYUがさらりと歌いこなすことで印象的なパートになった。「これぞアニソン」と前述した「Force」だが、イントロやHUENINGKAIが最初に歌うサビのメロディとは一転するAメロはメンバーたちの歌唱力を強調させ、さらにそれが再び訪れるサビの疾走感と曲調に合う5人の真っ直ぐな歌声、衣装もあいまった彼らの爽やかなイメージを強調させる。この相乗効果を、常用していない言語である日本語で実現したTOMORROW X TOGETHERのスキルを私たちは見せつけられた。

一方、2021年リリースの日本1st EP『Chaotic Wonderland』に収録されているGReeeeN(現GRe4N BOYZ)提供曲「Ito」や、2023年リリースの日本2ndアルバム『SWEET』に収録曲されている川崎鷹也提供曲「ひとりの夜 (Hitori no Yoru)」、優里提供曲「紫陽花のような恋 (Hydrangea Love)」など、しっかりとボーカルを聴かせるバラードも彼らはリリースしてきた。2019年のデビューから1年も経たないうちにパンデミックへ突入し、グループ初のワールドツアーがデビューから3年後の2022年開催となったからこそ、徐々にライブへ組み込めるバラード曲が用意されていったのかもしれない。名だたるシンガーソングライターを迎えることができるのも、TOMORROW X TOGETHERにはそれだけの実力があるからだろう。

「Ito」は音楽番組でも披露されており、『CDTVライブ!ライブ!』(TBS系)でのパフォーマンス時には、白のロングコートに白いマイクスタンドという冬らしい装いで登場。じっくりとバラードを聴いていると、バラードにこそSOOBINとYEONJUNの歌声が必要だとつくづく思う。YEONJUNの鼻にかかったような甘い歌声は、聴いてすぐに彼のものだとわかるほど特徴的だ。高音パートの目立つTAEHYUNとHUENINGKAI、温かく優しい歌声のSOOBINとBEOMGYU、普段はラップを任されることも多いYEONJUN。ボーカルも1つの音色として考えれば、ギタリストがエフェクターを積むのと同じように、グループにもさまざまな声色があると表現力が広がる。この曲でもラストのサビで転調の橋渡しとなるパートをYEONJUNが担当していることがそれをよく表している。彼の存在は、TOMORROW X TOGETHERの音楽を耳で楽しませる大切な要素となっている。

また、BEOMGYUは優しい歌声の中でも低域に気持ちよく聴こえるポイントがあり、ゆえにTAEHYUNとハモるパートではお互いが良さを引き立てている。SOOBINも優しい歌声だが、中低域あたりが得意なのか、「Ito」では曲を通してキーがぴったりハマっている。そして、ときにSOOBINのような歌声がキリングパートを担うこともあるのだ。前述のYEONJUNの歌のあと、SOOBINが担当しているパートを聴くとよくわかると思う。私が“優しい歌声”と繰り返してきた理由、“優しい”という言葉がベストなのだと。リーダーであるSOOBINによって、会場でこんな歌声に包まれるMOAは幸せだろうなと思う。

さらに、TOMORROW X TOGETHERはカバー曲でも私たちを驚かせてくれる。7月6日放送の『THE MUSIC DAY 2024』(日本テレビ系)では最新の日本オリジナル曲「ひとつの誓い (We'll Never Change)」が披露されたほか、TAEHYUNは「Perfect Storm (feat. TAEHYUN of TOMORROW X TOGETHER)」で山下智久とコラボし、HUENINGKAIはSnow Manの渡辺翔太とともに優里の「ベテルギウス」をカバーしたことも記憶に新しい。特に「ベテルギウス」ではHUENINGKAIの歌の上手さは言わずもがな、字幕を目で追わなくても歌詞が耳に入ってくることに驚いた。それを常用していない言語で可能にしているのが、やはりTOMORROW X TOGETHERの実力なのだ。このように遡ってみると、彼らの日本オリジナル曲が最初から高い完成度であったことにも気づくだろう。

時間は少し戻るが、2023年11月に東京ドームで開催された『2023 MAMA AWARDS』では、X JAPAN YOSHIKIも登場したコラボステージにTAEHYUNとHUENINGKAIが参加し、X JAPANの「ENDLESS RAIN」を歌い上げた。特にラストのサビへ入っていく前、地声に近い“がなる”ような高音を聴かせたTAEHYUNのパートはこのステージでのハイライトと言ってもいいだろう。どこにいても主役をかっさらってしまうような見せ場を作れる魅力がTAEHYUNにはある。擦り切れてしまいそうにも聴こえる歌声がどこまでも伸びていく。この歌声でしか得られない満足感をどこまでも追いかけたくなる。

「君じゃない誰かの愛し方 (Ring)」のように振り付けのある日本オリジナル曲もあるが、“踊りながら歌える”ことは韓国語でのオリジナル曲でもよく見られていることから、今回はボーカルにフォーカスした曲を取り上げた。そして、本稿を書きながらTOMORROW X TOGETHERが持つボーカルの魅力を体に染み込ませているうちに、MOAへ向けたファンソング「MOA Diary (Dubaddu Wari Wari) [Japanese Ver.]」の存在を無視できなくなってしまった。全員がボーカルとしてそれぞれの魅力と高いスキルを持っているということは、コンセプトや歌詞に込められたメッセージを伝える土壌がその先にはきちんとあるということ。そんな5人がMOAの名前を冠し、MOAとの未来を約束する曲を日本語でも歌ってくれる。MOAに届かないはずがない。コンサート会場へ足を運んだり曲を聴いたりとさまざまな形で応援するMOAとTOMORROW X TOGETHERが、長く愛のやり取りを続けられたらいいなと願いながら、本稿の筆を置く。

(文=Koharu Toumei)

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