『虎に翼』母となった“香子”の揺るぎない覚悟 “新潟編”では岡田将生がキーパーソンに?

新潟地家裁三条支部への異動が決まった寅子(伊藤沙莉)。命じた桂場(松山ケンイチ)の狙いは、本来の裁判官たちが詰む経験を改めてし直す寅子にとっての地盤作り。「獅子は我が子を千尋の谷に落とす」というが、桂場や多岐川(滝藤賢一)をはじめとする飛び切りの愛のこもった決断だ。『虎に翼』(NHK総合)第75話では、優未(竹澤咲子)を連れて新潟へと旅立つ寅子をそれぞれの人物が見送っていく。

多岐川の家で開かれた寅子の壮行会。提案したのは香子(ハ・ヨンス)だった。汐見(平埜生成)と一緒になってからは初めて寅子とじっくり向き合う香子は、よね(土居志央梨)、轟(戸塚純貴)、梅子(平岩紙)の今を聞く。「すっごく会いたい」とキラキラした笑顔で答える香子だったが、愛する娘のために崔香淑を捨て、汐見香子として日本で生きていくことを決めた彼女の覚悟は揺るぎない。幸せだから――心配はいらないと、香子は寅子を抱きしめ笑顔で見送った。

その香子の覚悟は、かつての同級生である小橋(名村辰)とは会わないという姿勢にもしっかりと表れている。「噂の香子ちゃんに会えると思ったのに」と残念そうな小橋に、汐見が「お友達のうちにお呼ばれしていて」と謝り、それに多岐川、寅子も口裏を合わせている。壮行会は宴もたけなわ。締めの挨拶を任された多岐川は寅子を前にして感極まり、ふんどし一丁になって井戸端へと飛び出していく。寅子へと猛烈に気合いの入ったエールを送る多岐川に、汐見、稲垣(松川尚瑠輝)、小橋が桶で水を浴びせる光景は、グイッと多岐川の表情を捉えるカメラの演出も相まって笑えてくるが、多岐川本人は至って真剣であり、その芝居に寅子を演じる伊藤沙莉の頬にはぽろぽろと涙が伝っている。抱き合い、団子状態になって転がっていく4人に、寅子は「なんじゃこりゃ」と泣き笑いの表情を見せるのだった。

続けて寅子はよね、轟、梅子にも別れの挨拶をするために上野を訪れた。今振り返ると、よねは寅子がどんなに名声を手に入れたとしても、周りに流されず、変わらずに寅子へと怒りを向けてくれていた。「怒られそうだけど、うっとうしいついでに」と、寅子は自分の道に戻ることを勧める。それは諦めかけていた司法試験への挑戦。寅子はよねのそばに歩いて行き、「私、確信してるのよ。弁護士になったよねさんにしか救えない人たちがたっくさんいるって」と言葉をかける。机に向かうよねは一点を見つめていた。

1952年、春。寅子が優未とともに新潟で新生活を始める時がきた。花江(森田望智)、直明(三山凌輝)、直治(楠楓馬)、直人(琉人)に見送られ、寅子は優未と手を繋ぎ、桜が満開の新潟県三条市に到着。向き合って夕飯を食べる寅子と優未だが、優未の被ったスンッの仮面はなかなか取れない。寅子と目を合わさず、黙々と箸を動かす優未。竹中(高橋努)が撮影した、“うさんくさい”猪爪家の家族写真が戒めのように飾られている。

新潟で一から自分を見つめ直し、土台を築くことを誓う寅子。第16週からは舞台を移しての「新潟編」がスタートし、弁護士の杉田太郎(高橋克実)など新キャストが続々と登場する(高橋克実は三条市出身)。さらに予告でも映し出されている通りに、赴任先で再会することになるのが星航一(岡田将生)だ。盛大なネタバレのため詳細は伏せるが、『あさイチ』(NHK総合)の“朝ドラ受け”では、ネットニュースで先の展開を見る派の博多大吉が、史実通りにいけば星がこの先の大事なキーパーソンになることに言及しており、すでに公式サイトでも出演者紹介にて、星が寅子の次のポジションへと格上げになっている。優未との間にできた大きな溝、自身の土台形成、そこに関わってくるのが星ということなのだろうか。
(文=渡辺彰浩)

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