ボン・ジョヴィ『Lost Highway』解説:ジョンのコメントともにナッシュヴィルでの作品を振り返る

ボン・ジョヴィ(Bon Jovi)がカントリー風のアルバムを制作して批評家から高い評価を受ける。そのアイデアは、初めこそ机上の空論に思えたかもしれない。

それでもニュージャージー出身の伝説的ロック・バンドである彼らは、ナッシュヴィルを拠点として『Lost Highway』を制作し、その結果、大胆な路線転換は見事に成功し、同作はグラミー賞にもノミネートされたのだった。 

ボン・ジョヴィのナッシュヴィル愛

実のところ、彼らはかねてからこのジャンルに手を出していた。例えば、ジョン・ボン・ジョヴィが1990年に発表したソロ・デビュー・アルバム『Blaze Of Glory』もその一例で、同作はアメリカーナの要素を随所に取り入れたアルバムになっていた。

また、『Lost Highway』の前作にあたるアルバム『Have A Nice Day』(2005年)からの2枚目のシングルに当たる「Who Says You Can’t Go Home」も、カントリー・ヴァージョンが作られるとビルボード誌のホット・カントリー・ソングス・チャートで1位を獲得。このヴァージョンは、ジョン・ボン・ジョヴィはシュガーランドのジェニファー・ネトルズとのデュエットを披露している。

そして「Who Says You Can’t Go Home」の成功は、バンドのその後の活動に弾みをつけた。これを機にジョン・ボン・ジョヴィと彼の共同作曲者でもあるギタリストのリッチー・サンボラはナッシュヴィルへ向かい、2006年の夏のうちに『Have A Nice Day』の次作に向けた曲作りを進めていったのだ。

ボン・ジョヴィ自身も当時に制作されたプロモーション映像の中で、「Who Says You Can’t Go Home」の成功のあとでカントリー・ミュージックの本場を訪れることは自然な成り行きに思えたと語っている。

「俺は昔からナッシュヴィルで作られる楽曲の歌詞が好きだったし、20年近く前からよくここを訪れていた。だから俺たちは、その流れでアルバム一作を作ってみたらどうかって考えたんだ。このあたりのバーに入ってみると、素晴らしいソングライターにばかり出くわすんだ。だから、その気がなくても感化されてしまうんだよ」

ナッシュヴィルにおけるセッション

ボン・ジョヴィとリッチー・サンボラは作曲にあたって、新たなコラボレーターたちから刺激を受けていた。実際彼らは、ビリー・ファルコン (「Everybody’s Broken」を共作) やブレット・ジェームズ (「Till We Ain’t Strangers Anymore」の共作者の一人) といった、才能には恵まれているものの、まだその名を知られていないナッシュヴィルのソングライターたちとともに楽曲を完成させていった。

新曲の曲作りが終わるころ、二人はテネシーで残りのメンバーのほか、『Lost Highway』のプロデューサーを務めるジョン・シャンクス、ダン・ハフの二人と合流。シャンクスとハフは、「Who Says You Can’t Go Home」のカントリー・ヴァージョンにも携わっていた人物だ。

そうして、二人のプロデュースの下でレコーディングがスタート。ナッシュヴィルにある二つのスタジオを使用して、計12曲のトラックが作り出された。もっとも、レコーディング自体は滞りなく進み、素晴らしい楽曲もいくつか生まれたものの、『Lost Highway』はジョン・ボン・ジョヴィが当初想定していたアルバムよりも、些か多様なサウンドを含む作品に仕上がった。ジョンはこう話す。

「俺たちは、その土地に迎合したり、逆によそ者のような印象を残したりすることなく、しっかりとメッセージを伝えられるようなアルバムを作らなきゃいけなかった。ナッシュヴィルに行ってカントリーのアルバムを作ろうとみんなに言ったとき、俺は自分でその意味を間違って捉えていた。実際に俺たちが作ったのは、あくまでナッシュヴィルっていう環境の影響を受けた”ボン・ジョヴィのレコード”だったんだ」

『Lost Highway』の作風

『Lost Highway』のタイトルは、”ミュージック・シティ”と呼ばれるナッシュヴィルにルーク・ルイスが興したレコード・レーベルの名前にちなんでいる。そしてこのアルバムは、多くの部分で、同地の音楽とグループ独自の音楽の”いいとこ取り”をしたような印象を与える。

例えば「Everybody’s Broken」や、切なる想いが歌われるジョン・メレンキャンプ風の「Seat Next To You」、切迫感を感じさせる表題曲などの良質な楽曲では、ペダル・スティールやマンドリン、フィドルといった楽器による装飾が確かに効果を上げている。

一方で、しかしアメリカーナの要素は、バンドの武器とも言えるノリの良いロック・サウンドともごく自然に調和しているのである。そのことは、ラジオ向きの「Summertime」や快楽主義的な内容の「We Got It Going On」 (サンボラがトーク・ボックスを使用したピーター・フランプトンさながらの演奏を披露している) などに顕著な通りだ。

さらに『Lost Highway』のレコーディングからは、バンド史上屈指に印象的な二つのバラードも生まれた。そしてその二曲は、伝統的なカントリーの要素や上品なアレンジによって繊細な彩りを与えられている。想いを寄せる相手に誘いをかける内容の「(You Want To) Make A Memory」は、シンガーであるボン・ジョヴィ自らが同作における「魔法の時間」と表現するほどの一曲。彼のキャリアを代表する見事な歌唱が、この曲の魅力をいっそう高めている。

他方、もう一曲のバラード「Till We Ain’t Strangers Anymore」は、最終的にボン・ジョヴィとリアン・ライムスの心揺さぶるデュエット・ナンバーに仕上げられた。

実のところ、ライムスがスタジオにやってくるまで、この曲を完璧に歌い上げるのは困難だと思われていたという。しかし、のちにボン・ジョヴィが明かした通り、ミシシッピ生まれのカントリー・スターである彼女は「助っ人にやって来て、素晴らしい仕事をした」のだった。

リリース後の反響

「Who Says You Can’t Go Home」が成功を収めたあとだったこともあって、2007年6月19日に初めてリリースされた『Lost Highway』はすぐに全米アルバムチャートで首位を獲得。初週だけで約25万枚を売り上げている。それ以降、同作は世界全体で400万枚以上のセールスを記録した。

メンバーたちはこのアルバムに世界中のリスナーを引きつける魅力があると信じていたが、そのことはセールスからも証明されたのである。とはいえ、『Lost Highway』がこれほどの成功を収めたことはメンバーたちをも驚かせた。前例がないほどの需要の高まりを受け、もともと2008年に計画されていた”グレイテスト・ヒッツ・ツアー”は開始時期を2007年の終盤に前倒しされ、名称も”ロスト・ハイウェイ・ツアー”へと変更されたのである。

このあとボン・ジョヴィの面々は、マーキュリー・レコードからの最後のアルバムとなった2009年作『The Circle』で、彼らが本来得意とするロック・サウンドに回帰。それでも、ニュージャージーを代表するバンドであるボン・ジョヴィは、現在もなお『Lost Highway』に誇りを感じており、同作を作り上げたことをキャリアにおける最高の出来事の一つだと考えている。とジョン・ボン・ジョヴィはこう振り返る。

「テネシーに行って、あの作品をマーキュリー・ナッシュヴィル・レーベルからリリースすることができたのは、本当に特別なことだった。あのアルバムは”創造的自由へと通じる門”を俺たちに開いてくれたんだ」

Written By Tim Peacock

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